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本新学術領域の概要

 蓄電固体材料には、①電子・ホールがイオン(M+)より高速に伝導し、バルク内のM+濃度を電位で自在且つ顕著に制御できる材料(インサーション電極材料:電極)②M+が電子・ホールより高速に伝導する材料(固体電解質:電解質)の二種類があります。二種類の蓄電固体材料が接合する(=蓄電固体界面)と、界面近傍では電子やホールに加えてM+の移動も起こることで平衡状態が形成され、全てのキャリアの電気化学ポテンシャル(η)が一定となります。この結果、蓄電固体界面では空間電荷層の形成に加えて、M+の濃度・活量変化と、M+の伝導を担う骨格構造の力学緩和(歪み分布)がもたらされ(図1)、バルクと異なる特異なイオンダイナミクスが発現します。蓄電固体界面におけるこのような物理化学状態の変調がイオンダイナミクスに及ぼす影響を明らかにし、既存の概念に捉われない新機能を発現させます。この目的達成に向けて、下記四つの研究項目のもと、化学・物理・計測・情報・材料の異分野研究を融合し、新たな固体界面科学の学理を構築します(図2)。

 A01では、単結晶・薄膜形成技術を活用し蓄電固体材料の構造規定モデル界面を構築し、その界面イオンダイナミクスの基礎特性を電気化学的手法などにより調べます。A02では、蓄電固体界面近傍における電位、イオン濃度、化学ポテンシャル、局所構造などの変調・分布を、高度計測手法を駆使することで多角的に評価します。A03では、蓄電固体界面近傍のイオン及び電子の分布・ダイナミクス機構を、多階層スケール計算やインフォマティクス解析を組み合わせた理論的アプローチにより解明します。A04では、結晶・非晶質材料において、界面構造の異なる蓄電固体材料や格子欠陥や格子歪を有する準安定相材料などを活用した新機能の発現を目指します。

 本学理構築により、例えば高容量・高出入力が可能な全固体電池の界面・新材料設計指針が明確となり、加速的な高性能化が期待されます。また、全固体キャパシタ、超伝導・トランジスタ、アクチュエータ、振動発電素子など、既存の概念に捉われない新世代イオンデバイスの創成にも繋がります。

図1 蓄電固体界面のイオンダイナミクス
に及ぼす因子の概略図
図2 研究項目の概要

領域代表挨拶

領域代表 名古屋大学
入山 恭寿

界面近傍では、イオンの活量・濃度が固体本来から変調し、特異的なイオン輸送・蓄積現象が生じます。本領域は、この「界面イオンダイナミクス」のしくみを明らかにする「蓄電固体界面科学」の学理構築を目的としています。

 例えば電池や電気二重層キャパシタは私たちの生活に不可欠なデバイスですが、安全性・寿命・エネルギー密度等が格段に優れる、固体電解質を用いる全固体電池や全固体キャパシタなどの「蓄電固体デバイス」が注目されています。その開発の鍵を握るのが界面です。電極と固体電解質の界面を例にすると、全固体電池では高速な界面イオン輸送が主に求められますが、全固体キャパシタでは高濃度な界面イオン蓄積が求められます。このように、デバイスに応じて望まれる特性は異なりますが、それを引き出すために界面に生じる課題を明確にし、高性能化のための界面設計戦略を示すのが「蓄電固体界面科学」です。社会的にも重要な取り組みであることがご理解いただけると思います。

 この界面イオンダイナミクスには、電気的・化学的・力学的・電気化学的因子が複雑に関わっていると考えられます。従って、この学理構築には様々な学域を融合して取り組むことが不可欠です。本領域では、蓄電固体材料を扱ってきた従来学域(電気化学、固体イオ二クス、材料化学)に、近年発達してきた最先端・新興学域(薄膜工学、高度計測、計算・データ科学)を有機的に連携し、更に国際連携も適材適所に取り入れることで、学理構築を進めます。また、その過程において、次世代を担う若手研究者を育成することにも力を入れて参ります。

本領域の活動に、多くの方のご支援とご興味をもって頂ければ幸いです。

どうぞよろしくお願いいたします。

領域代表   名古屋大学 入山 恭寿

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